山形・最終日

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 顛限院は、建物自体は仏教に改宗した寺のように見えるが、実際は陰陽道のはずである。 「陰陽道の人間が、即身仏になるなんて、自分の信仰そのものを捻じ曲げることになる」  確かにプーの言う通りである。  自分が今まで人生を投じ、信じて来た道を、すべて捨てて死ねと言われているのだ。  プーは言った。 「当然、それだけは断ったはずだ。自分が即身仏になっても、人は救えないと言うことも分かっていたはず…」  しかし、結果としては、プーのひいひいおじいさんは即身仏の修業として、山籠もりをしているのである。 「でも山籠もりって、自分でやろうと思わなきゃ出来ないよね…?」  即身仏になる為には、餓死まで限りなく近づけるが、餓死してしまっては意味がない。  例えば、村の人達が顛限院の主を山に追いやったとしても、山を出てどこかに逃げてしまったり、本人が自殺や餓死を選んだ場合は、即身仏にはなれないのである。  それこそ監禁したり、縛り付けでもしない限り、その意思がない人を即身仏にするなど不可能だ。  プーは言った。 「周囲の余りの懇願に、最終的には自分から山に入ったんだろうとは思う」  しかし、山籠もりをしたからと言って、積極的に即身仏になる為に苦行をしたかと言うと、そうではないはずだ。  プーは 「即身仏になることを了承したのは、本当だ。実際、一年かけて骨と皮だけになったひいひいじいさんが、土中に入内したって記録がある」 と言ったが、話には続きがあった。 「これは記録に残ってるものじゃなく、うちに伝わる話だ」  プーのおじいさんは、まだ自分が若かった頃に、自分の父親からこんな話を聞いたらしい。 「お前のおじいさんは、自分自身に呪いを掛けたんだよ」 と。
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