山形・最終日

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 あたしが 「自分に呪いを掛けると、どうなるの?」 と聞くと、プーは 「やったことがないから、分からない」 と呆気なく首を横に振りながらも、こう先を続けた。 「多分…生きてるうちは効果がないものなんだと思う」  と言うことは、死んでから効果が出ると言うことである。  プーは薄暗い笑みを宿して言った。 「即身仏になった後、その体は村の人間の元に残るんじゃなく、差別をしてた人間に差し出される予定だったって言ったろ…?」  あたしはその言葉に、何か禍々しいものを感じ取って、恐る恐る尋ねた。 「その人たちに呪いを向けた…ってこと?」 「多分、そうだ」  プーの黒い目は、あたしではなく、虚空を見ている。  そのままの状態で、彼は言った。 「花笠の祭りの日、焚き上げを村の外でやったろ?」 「…うん」  花笠に厄災を宿らせ、それを焚き上げる。  それは自分の村では行わない、とプーが意味深に言っていたことを思い出す。 「あれも呪いみたいなもんだ。現代ではその起源なんか、村の奴らも知らないが」 と前置きをした上で、プーはこう続けた。 「村の厄災を、山の向こうにいる奴にぶつける。だから、風の向きが谷から山に向かって吹き上げる時間に焚き上げる」  それがあの焚き上げの起源だそうだ。 「呪術が専門とは言え、あの村の先祖はただの民間陰陽師だからな。本格的な呪いなんか、滅多にやらないし、実際に呪いを掛けることが出来るほど力を持った奴がいなかったんだろう」  だから、焚き上げの煙を山の向こう側に送ると言う、視覚的に分かりやすい方法の呪いのやり方をしたのだろう、と言うのがプーの考えのようだ。  いずれにせよ、プーの高祖父にあたる人物は自分自身に呪いを掛けることで、山の向こう側にいる人々に、呪いを送ろうとしたわけである。 「その呪いは、結局どうなったの…?」  あたしがおずおずと尋ねると、プーは 「失敗したよ」 と、ふっと自嘲気味に笑った。
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