山形・最終日

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「山籠もりをして、土中入内したまではいいが、そこから先、土の中から掘り起こすのは周りの奴らだからな」  掘り出すことに失敗したり、その時に水や湿気で、体が腐ってしまうことは多い。  だから、この仙人沢には即身仏の修業に失敗した仏僧のお墓が、こんなに沢山並んでいるのだ。 「じゃぁ…プーのひいひいおじいさんの体も、掘り起こすのに、失敗しちゃったの?」 「そうらしい。まぁ、何の教養も知識もない田舎の村だからな。やり方が間違ってたのかも知れない」  プーが読んだ顛限院の記録によると、そこには 「土中入内に失敗し、遺体はそのまま土葬された」 とあるそうだ。  ただし、記録上では 「失敗はしてしまったが、飢餓は乗り越え、村人たちは顛限院に感謝した」 ともなっているらしい。 「まぁ、結果オーライってとこだろうな。飢餓さえ乗り越えりゃ、即身仏があろうがなかろうが、関係ない」 「そんな…」  信仰していた陰陽道を捨ててまで、村人の為に即身仏になることを決めたというのに、それではあんまりだ。  それから彼は、ぽつりと呟いた。 「うちにはひいひいじーさんの墓がないんだ」  顛限院のある村では、昔は土葬が行われており、亡くなった後は山に埋められ、墓石も置かないと言っていたから、確かにお墓と言うものが存在しないのだろう。  さらに、プーはこんなことを言った。 「陰陽師とは言え、顛限院では呪いは禁忌だ。呪いを行った者には、贈り名も付けないし、祈祷も捧げない」  加えて、当時は戦時中である。まともなお葬式をあげる余裕などあるわけもない。  顛限院では、プーの高祖父に当たる人物の弔(トムラ)いをあげたことが、一度もないらしい。 「…そうなんだ」  呪いを行ったとは言え、望まぬ即身仏になり、村の為になろうとした人物に対して、厳しいように思える。
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