山形・最終日

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「即身仏になれって騒いだかと思いきや、体を掘り起こすのに失敗した後は、感謝して、その後は墓を掘り起こす…笑えるだろ?」  プーは可笑しそうに肩を揺らしたが、とても笑える話ではない。  あたしが複雑な表情で黙り込んでいると、彼はこう続けた。 「それが人間の業(ゴウ)だよ。身勝手で傲慢。何もうちの村に限った話じゃない。人間はそういう生き物で、どこにでもそんな人間はいるんだ」  遠い国、大昔に起こった出来事ではない。  たかだか百年、五十年前に、あたしが泊まっていたあの顛限院で、プーが育ったあの村で実際にあったことなのだ。  望まぬ即身仏になったのが、プーの高祖父だけとは限らない。  どこか別の村でも同じようなことがあったとしても、不思議ではないのだ。  しかし、あたしのそんな思考を読み取ったかのように 「ここにある墓は、望まぬ即身仏の墓じゃない」 とプーが口にする。 「そうなんだ。でも…」  あたしは少し不思議に思って、尋ねてみた。 「ここのお墓は、自分から望んだとはいえ、即身仏になることに失敗した人のお墓でしょ…?失敗したのに、悪霊になったり、後悔が残ったりしないのかな」  すると、プーは 「ここに霊はいない」 ときっぱり言い切った。 「消えちまったんだ。仏教用語で言う所の成仏って奴をしたんだろうな」  そう呟くプーの声に、どことなく寂しさがあったような気がして、あたしは彼を見た。  すると、彼も顔を上げて、どこか遠くを見ている。  プーの視線の先に、ここにお参りに来たのであろう人の姿があった。  その人を見たまま、彼は言った。 「ここは、一年中、結構な人が墓参りに来るからな。人が手を合わせて拝むだけで、霊は癒される」  それから 「自ら即身仏になろうとするってことは、他の人が救われれば、自分は報われるって考えだろ。そういう心の持ち主なら、きっと恨みなんか残さずに消えるんだろうな」 と呟いて、目の前にある小さな墓石をそっと撫でた。  なんだかその仕草が、切ない。  あたしは言った。 「プーがここに来たかったのって…」 「あぁ、実家に帰っても墓がないからな。代わりにここに墓参りでもしようかと思って」
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