山形・最終日

18/19
75999人が本棚に入れています
本棚に追加
/967ページ
「そっか」  とは言え、まさかお墓参りに来るとは思っていなかったから、お花やお線香の類を持って来ていない。  が、プーは 「んなもん、なくていいよ」 と笑い、静かにその場で手を合わせた。  名前も分からぬ、仏僧の墓の前。  手を合わせたプーは、そっと目を伏せ、黙祷を捧げる。  その仕草が、食事の時の 「頂きます」 の挨拶のものととても良く似ていて、あたしはハッとした。 (もしかして…)  とは思ったが、今は聞く時ではない。  あたしも手を合わせ、目を閉じ、祈りを捧げる時だ。 「……」  しばらくすると、プーは顔を上げ 「帰るか」 と呟いた。 「うん」  立ち上がったプーは、腰をひねってポキポキと鳴らし、さり気なくヒョイとあたしのボストンバッグを担いだ。  あたしがきょとんとしているうちに、彼はしれっとした顔で 「トロトロしてっと置いてくぞ」 と先を歩いて行ってしまった。
/967ページ

最初のコメントを投稿しよう!