帰宅後

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 山形に行っていたのは、合わせて五日間になる。  実は今までは、三日に一度くらいの割合で、冷蔵庫の下の塩をプーが変えていたから 「ねぇ、塩は平気なのかな?」 と気になって、帰り道に聞いてみた。  すると、プーは指折り数えて 「まだ五日だろ?別に冷蔵庫の扉が勝手に開くわけじゃなし、塩を置いてんのは、保険みたいなもんだから大丈夫だ」 と欠伸をしながら言った。  まぁ、確かにあたし達が出かけている間に、冷蔵庫が勝手に開く……なんて言うホラー映画みたいなものは遠慮したい所だ。  プーとあたしがいつものマンションの部屋に戻って来ると、室内は真夏の日差しで、サウナ状態になっていた。 「暑い…!プー、窓開けて」  鍵を開け、先に室内に入ったプーに声を掛けると、彼はリビングではなく、真っ先にキッチンの電気を付け、例の冷蔵庫へと向かっていた。 「……カナ」  あたしが靴を脱いでいる間に、彼があたしの名を呼ぶ声がした。  その声が、彼らしくない妙に真面目なものだったので、あたしは違和感を覚えた。 「…何よ?」 「窓、開けろ」 「なんで。プーが開けてくれればいいのに…」 「いいから」  有無を言わせない声だ。  不思議に思いながらも、この暑さで空気の入れ替えをしなければ、あっという間に汗だくだ。  あたしは苦労して靴を脱ぎ、とりあえずリビングの電気を付け、窓を全開にした。 「よいしょ…っと」  生温い風でも、窓を開けると多少マシになる。 「窓開けたよー?」  どうしたの、とあたしはキッチンに向かった。  プーは例の冷蔵庫の前にしゃがみ込んでおり、何も言わない。 「冷蔵庫に何かあったの…?」  なんだか嫌な予感がして、あたしはひょいと後ろから覗き込んだ。  冷蔵庫はいつものようにそこにあるだけで、何も変化はない。  変化があったのは、下に置いてあった盛り塩の方だ。 「え…」  それを見た瞬間、あたしはその場に立ち竦んだ。
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