75995人が本棚に入れています
本棚に追加
/967ページ
山形に行っていたのは、合わせて五日間になる。
実は今までは、三日に一度くらいの割合で、冷蔵庫の下の塩をプーが変えていたから
「ねぇ、塩は平気なのかな?」
と気になって、帰り道に聞いてみた。
すると、プーは指折り数えて
「まだ五日だろ?別に冷蔵庫の扉が勝手に開くわけじゃなし、塩を置いてんのは、保険みたいなもんだから大丈夫だ」
と欠伸をしながら言った。
まぁ、確かにあたし達が出かけている間に、冷蔵庫が勝手に開く……なんて言うホラー映画みたいなものは遠慮したい所だ。
プーとあたしがいつものマンションの部屋に戻って来ると、室内は真夏の日差しで、サウナ状態になっていた。
「暑い…!プー、窓開けて」
鍵を開け、先に室内に入ったプーに声を掛けると、彼はリビングではなく、真っ先にキッチンの電気を付け、例の冷蔵庫へと向かっていた。
「……カナ」
あたしが靴を脱いでいる間に、彼があたしの名を呼ぶ声がした。
その声が、彼らしくない妙に真面目なものだったので、あたしは違和感を覚えた。
「…何よ?」
「窓、開けろ」
「なんで。プーが開けてくれればいいのに…」
「いいから」
有無を言わせない声だ。
不思議に思いながらも、この暑さで空気の入れ替えをしなければ、あっという間に汗だくだ。
あたしは苦労して靴を脱ぎ、とりあえずリビングの電気を付け、窓を全開にした。
「よいしょ…っと」
生温い風でも、窓を開けると多少マシになる。
「窓開けたよー?」
どうしたの、とあたしはキッチンに向かった。
プーは例の冷蔵庫の前にしゃがみ込んでおり、何も言わない。
「冷蔵庫に何かあったの…?」
なんだか嫌な予感がして、あたしはひょいと後ろから覗き込んだ。
冷蔵庫はいつものようにそこにあるだけで、何も変化はない。
変化があったのは、下に置いてあった盛り塩の方だ。
「え…」
それを見た瞬間、あたしはその場に立ち竦んだ。
最初のコメントを投稿しよう!