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私は、『過去』で生まれた。正確には、『過去』に堕ちた。
『過去』の世界は薄暗い。私が生まれた場所は、まるで深い洞窟の底にいるような所だった。
私は、天上にある沼の中から、ドサッとうつ伏せになって落ちた。
痛みに目を開けると、まず白くて長い髪が見えた。次に自分の手のひら。起き上がってみると、周りは岩ばかりであった。見上げると沼があり、それを見ている私がそこに映っていた。
水面に映った私は、自分の髪が床に届いて余っていた。瞳は、右目が赤く、左目は暗闇で金色に光っていた。まるで宝石か、光そのもののように。
服は真っ黒で、喪服のようだった。尤も、その時の私は、喪服を着ているなんて自覚はなかったけれど。
──今、堕ちた。
──どこから? 上から?
──上にいる誰かが私を見ている。
──もしかして、あれは私?
──……私って、誰?
──そもそもここはどこ?
最初は何も分からなかった。
そんなふうに呆けていると、コツンコツンと足音が聞こえ、それがだんだん大きくなってくるのが分かった。
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