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 次の日。 コンコン― 「タカユキ?あたし、これから出かけるから」 「……」 「お父さんも帰り遅いって言ってたし…」 「……」 「じゃあ行って来るね…」 「……」  今日は、珍しく出かけるらしい。  男か?なんて事を思いながら朝御飯のサバの味噌煮をたいらげる。 「誰も居ないのか…、風呂でも入るかな」  ボクは、普段風呂に入らない。一ヶ月に一回なんて当たり前。  入っても、いつもならこんな時間には絶対に入らない。  二人が寝静まった深夜に入る。  今さらだが、ボクは家族との接触も拒んでいる。  ここ数年間、会話一つ交わしていない。  必要なことは、紙に書いて食事のお盆に乗せておく。  父や姉が、こんなボクでも家族として思ってくれていることは、ボクに対する対応から何となくはわかる。  それでも、ボクにとって彼らは他者だ。  物音がしないか耳を側だてる。 「行ったかな…?」  着替えとタオルを抱えて薄暗い部屋をあとにする。  階段を降りて、風呂場へ向かう。  家の中は、西日が差し込んでいてボクには少し眩しい。  キッチンのテーブルに、さっき食べたサバの味噌煮と書き置きがあった。  お父さんへ  私は、友達と食事に行って来ます。晩御飯は、サバの味噌煮です。温めて食べて下さい。         小雪より  女性らしい丸みを帯びた文字。  姉らしいなと思った。 「風呂に入らなきゃ…」  風呂から上がって、部屋に戻る。  ふと、あるものに目がいった。 「ナイフ…」  昨日は、結局放置して寝てしまった。  手に取って全体を眺める。
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