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悟は一人でぶつぶつと呟いていた。
マリアはその様子を伺っていた。
「この大学に早川って人がいるはずだ。たぶん理工学部の先生。そうだ、今回のことを伝えに来た。それで、」
悟はそこまで言うと口を閉ざした。
また何かを呟いている。
マリアも頭の中を整理しようと必死だった。
准教授は誰かに何かを伝えようとここに来た。
その際、暗殺者の手によって命を奪われた。
普通なら死に際に犯人の名前を残すだろうが、犯人のものとは思えない。
彼は犯人を知らなかった。
つまりあの名前は別の誰か。
彼が連絡を取りたがった誰かだ。
その誰かはこの大学にいる。
二人は現場を離れると理工学部の棟に向かった。
その外見は百周年を迎えた小学校のように古く、壁にひびが目立っていて、マリアがいた当時から何も変わっていなかった。
中に入ると理工学部独特の雰囲気が感じられた。
といっても悟は慣れている様子でいて、マリアはというと辺りをキョロキョロ見渡していた。
二人が廊下を進んでいると前から白衣を着た四十代ぐらいの男性が歩いてきた。
「すみません、早川先生の部屋はどこでしたっけ。」
悟はできるだけ馬鹿っぽく話した。
「302だよ。」
愛想の良い人だった。
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