4/5
前へ
/48ページ
次へ
渡部悟は男に連れられ、橋の向こうにある喫茶店に入った。 席に座ると男は口を開いた。 「先生はある研究をしていました。その資料が先生の研究室から消えていました。」 「警察からは聞いてませんが。」 「警察には言ってないんです。」 それを聞いた悟は驚いた顔をした。 「どうしてです?」 「警察に言えば私が疑われることになるでしょう。」 悟は顔をしかめた。 苛立ちを抑えるためか、指でテーブルを小突いている。 「なぜもっと早くに伝えてくれなかったんです。」 「警察がすぐ犯人を見つけると思っていました。」 悟はため息をつくと仰け反るようにして椅子にもたれ掛かった。 「父の研究は確か…」 「スベンスマルク」 男が言った。 ― スベンスマルク効果 ― 宇宙空間から飛来する銀河宇宙線が地球の雲の形成を誘起するという説で、skyと呼ばれる実験がスベンスマルク本人によって行われている。 今の段階ではこの説を完全なものと見なす者は数少ない。 悟は目を閉じて父の姿を思い浮かべた。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加