ある朝のプロローグ

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街の花屋『Queen of the Night』の朝は早い。 住宅街の中に埋もれるようにひっそりと佇む小さな店に今日も主人の手により所狭しと、色とりどりの花達が壁に取り付けられた棚上の花瓶や床の上の銀色のバケツに入れられ、次々と並べられていく。 「今日のガーちゃんはとっても元気ね」 主人が優しい笑みで見つめる先には赤や黄、ピンクなど可憐な服を身にまとい、美しく咲くガーベラがあった。 「かすみちゃんはちょっと元気がないみたいね……」 眉尻をさげ心配そうな表情を浮かべながら、元気なさげに首を垂れるカスミソウの前に座るとエプロンの前ポケットから花用の栄養剤を取りだし数滴を花瓶の中に垂らした。 「よし、これで大丈夫」 主人はカスミソウの前でにっこり微笑むと他の花に話しかけるために立ち上がった。 これはここの主人である山本八重の日課だった。最近になって持病の腰痛が酷くなってきた八重にとって狭い店内を歩き回り一つ一つ花の前で足を止め屈んだり、八重の身長よりもやや高いところにある花瓶に手を伸ばすのは一苦労だったが、花達と過ごすこの時間が八重は大好きだった。 ふと八重が一つの花の鉢の前で立ち止まった。
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