ある朝のプロローグ

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この店で一番日当たりのいいであろう窓際の小さな椅子の上に置かれたその鉢には『売り物ではありません』という小さなカードがピンクのリボンで結んである。 「あなたはまだまだ眠そうねー…」 少し悲しげな笑みを浮かべながら八重は目の前の月下美人を見つめた。 月下美人は咲く気配など微塵もまとわずに固く蕾をとじている。 小さくため息をつきながらゆっくり立ち上がると八重はシャッターに向かった。それに手をかけると歯をくいしばるようにしてシャッターをゆっくり押し上げる。やはり八重の老体には堪える。シャッターを上げきると肩を小さく上下しながらゆっくり深呼吸した。 「はぁ……やっぱり私もそろそろ年かしらね……それにしても今日はいい天気ね」 頭上に広がる青空に向かって気持ちよさそうに背伸びをし、大きく深呼吸をした。 そしてくるっと体の向きをかえ、店の屋根にある看板を見上げた。看板は八重に答えるように朝日を受けてきらっと輝いた。八重は店外から店内の花達をゆっくり見回しにっこり微笑んだ。 「さぁ、みんなお仕事の時間ですよ!」
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