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「行かないで……っ!」 彼の服を掴んだはずの手は、むなしく目の前の虚空を掴んでいた。 目線の先には彼ではなく、無機質なまでに白い天井がただそこにあった。 まただ……彼が私の前からいなくなったあの日から私はよくこの夢を見る。 私に背を向けて離れていこうとする彼の服を掴んだところで決まっていつも目が覚めた。 7年前のあの日、私は離れていく彼の背を追えなかった。しかし夢の中の自分は彼の服を掴み行かないでと叫んでいた。 本当はそうしたかった。彼の服を掴み彼の前で恥ずかしげもなく取り乱してでも彼を引き留めたかった。でも彼の決意に満ちたあの瞳があの日の私を止めたのだ。 今となっては後悔ばかりが胸の中で滞り続けている。 虚空を掴んでいた手をおろし無意識に手をやった頬は涙で濡れていた。 掌で涙をぬぐいながらあれが置かれているはずの窓辺を見る。しかしそこに置かれているはずのものがなかった。 今まで少しぼんやりしていた頭が一気に覚めていく。急いで身体を起こすとパジャマのまま階下の店に降りていった。 ダンダンという音を聞き付けて、店外で花の手入れをしていた八重が店内に入ってきた。 「静香ちゃん起きたの?」 階下に向かい丁度降りてきた静香をみると八重はにっこり微笑んだ。しかし静香の焦りの表情き八重は首をかしげた。 「……静香ちゃん?」 「八重さん!月下美人が…!」
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