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事は、帰り道に待ち受けていた。
やっとこのキモホクロ加齢臭から解放される、それが友里の正直な意見だった。
帰りの道中、大木がやたら友里に近いポジションで歩く。
手が当たる。キモイ。
その手は歩きながら、甲と甲が何度もぶつかった。
気付かないふりして、話し続ける大木。相手が取引先とあっては、うかつに何も言うことはできなかった。
後少し。
後少しの我慢だ。
何度も自分に言い聞かせた。
ヘタすれば、眉間にシワぐらいは寄ってるかもしれない。
━━━着いた━━━
その安堵で、顔がほころんだ。
リサイティの自動ドアをくぐり、「ではここで。」というタイミングだった。
ギュッ。
黒いスーツに身を隠していたお尻に、汚い手で。
「キャ!」
一瞬、何が起こったかわからなかった。
よくあること、なのかもしれない。
でもそれは、5年勤めた友里にとって、あまりに不愉快な衝撃だった。
そしてその衝撃は、相手にも伝わった。
「てめぇ!」
ガッ
大木が頬をへこませながら地面に倒れこむのがスローモーションで目に映った。
それこそ、一瞬何が起こったかわからなかった。
ただ、目に映ったのは━━
戸田の大木を殴った拳をそのままにし、大木を睨みつける顔だった。
今たった一粒の大きな水滴が、水いっぱいに振動を伝えた。
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