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「始めて見たわ」
ゆっくりと下りて来た球体は、エルディリアの掌に乗っかった。
それは、銀の球形の格子に収まった砂時計。
台座の上に乗った球はたやすくカラカラと回り、砂時計をひっくり返せる。
中の砂は銀色で、液体のように滑らかに滑り落ちる。
「これは、ベルツドールの秘宝よね?」
「そう。時の砂時計」
「これって、魔力を使って時間を操れるんでしょう?」
人々の間では、不可能とされる時間魔法。
ティエマの若返りも、自分の体を活性化させただけであり、時間を戻しているのではない。
「凄く魔力を使うらしい。私の時間を止めた魔導師は、使ってすぐに死んだ」
「……使いたかったけど、遠慮しておくわ」
ティエマは興味深そうに触れていた手を慌てて離し、砂時計から少し遠ざかった。
「ここは、私が閉じ込められるまで通路だったって知ってる?」
「初耳よ」
「そう。じゃあ直接ヴィステム=クシャスラに聞いた方がいいね」
「そうして。私にもクシャスラ様はよく解らないわ」
立ち上がりドレスを叩くと、肩を竦めた。
笑みを浮かべてエルディリアの手を取ると、出口に向かって歩き出した。
引っ張られるように、エルディリアはティエマに着いていく。
「今は夜だから、今のうちに出たほうがいいわ。何百年もこんな所にいたのに、いきなり太陽の光りは毒よ。何百年ぶりの外なの?」
「さぁ?建国100周年のパレードは見た気がする」
「貴女が600年位生きているっていうの、本当なの……?」
ティエマの言葉に、エルディリアは頷いた。
ジークフリートは、再来年建国700周年を迎える。
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