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白い大理石の廊下の奥。
紙の束を抱いて、マントをはためかせた何人もの男が絶え間無く出入りする部屋が一つある。
室内は物が多く、圧迫感さえ感じられるが、整頓されているため足の踏み場は多い。
「ラツィエル宮から、予算案が届いております」
「いくらです?」
「昨年より三割ほど増えております」
「……財務の方はなんと?」
「厳しいと……」
「……明日までに私から提案を出します。その紙を置いていってください」
「はっ」
部屋の奥で机に腰掛けている人物は、室内が自分一人になったことを確認すると、深い溜息をついて机脇の紅茶に手をのばす。
短い金色の髪が、夕日に煌めいた。
喉を通る液体は、温いから冷たいと言える過程にある微妙な温度。
口を離してカップの中を見ると、自分でも自覚できるほどに幼さのある顔が、紅茶の表面に歪んで見えた。
幼いのではなく、線が細いのだ、というのがイヴェール持論だ。
髪を、顔の横の部分だけ伸ばしてみたら印象が変わるかと思いやってみたが、大して変わらなかった。
少々気に入ったので、切る予定はないのだが……
「お疲れのようですな。お茶をいれ直しましょうか?」
顔を上げたイヴェールの視線の先には、長い白髭の老人が立っていた。
量も長さも平均以上の眉のせいで目は見えない。
その姿を誰のものか理解したイヴェールは、目を見開いて立ち上がった。
「これは、五大老の……」
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