36人が本棚に入れています
本棚に追加
イヴェールは、深く頭を下げて老人の元まで移動すると、部屋の中央にあったソファーを勧めた。
書類だらけのテーブルを、慌てた素振りで片付け、慣れない手つきでティーポットを用意しだした。
「おやおや……どれ、私がやりましょうかな?」
「そんな、クシャスラ様にやらせるわけには……」
「イヴェール殿。どうせ飲むのなら美味しい紅茶の方が、私は嬉しいですぞ」
意地の悪い笑みを浮かべて、イヴェールの手からティーポットを取ると、慣れた手つきで紅茶の用意を始めた。
クシャスラの座れと促す手に従い、渋々といった表情を見せて、イヴェールはソファーに腰掛けた。
「それほど時間は取らせませんが、お話があってな」
二つのティーカップを持って、クシャスラがイヴェールに近づいた。
湯気の立った琥珀色の紅茶をイヴェールの前に置くと、テーブルを挟んで、イヴェールの反対のソファーに座った。
「なにか、不備でも?」
「いいや、いいや。いい仕事ぶり。感心してますぞ。」
大袈裟に手を振って否定するクシャスラ様子に、イヴェールは肩の力を抜いた。
「話というのが、第二王子の五柱臣に選ばれたということでな」
「は!?」
「まぁ、それだけじゃ」
「え、あの……」
「紅茶、美味であった。良い茶葉を使っておりますな」
そう言って、混乱するイヴェールを無視して、素早く紅茶を飲み干し、クシャスラは早々に部屋を出て行った。
イヴェールは呆然としたまま机に向かっていたが、部下である文官たちが、文官達に言われるままに、仕事を進めることなく城を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!