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「イヴェール!」
太陽も真上に近くなり、昼も近いが別段空腹を感じない。
そう思い、本日も昼食抜きが決定したイヴェールの耳に、聞き慣れた快活な声が届いた。
「サマル?」
「聞け、イヴェール。俺、カエサル王子の五柱臣候補に決定だ」
ガシャガシャと腰に下げている剣の音を立てながら、背の高い男がイヴェールに近づいて来る。
赤毛は後ろの高い位置で一つに結ばれており、纏めきれなかった髪が顔にかかるくらいで、髪が邪魔そうな印象は、長さの割に感じない。
動きやすさと、礼儀を追求したような服で、首にはスカーフが緩く巻かれている。
イヴェールのマントと同じ白の布に、青の留め具がついている。
「五柱臣……ああ、私も選ばれたらしいです」
「だろ?凄いだ――イヴェールも?」
「はい」
イヴェールは手に持っていた大量の本をサマルに渡すと、執務室ヘと歩き出した。
その後ろを、当たり前のように本を抱えてサマルはついて歩いた。
「マジかよ。折角、これで勝負も決まったと思ったのにな」
「まさかサマルが選ばれるとは思わなかったので、驚きました」
「だろ?」
誇らしそうに笑う顔を見て、イヴェールは小さく「馬鹿」といった。
が、サマルの耳には届かなかったらしく、笑顔のままの顔を見て、イヴェールは小さく溜息をついた。
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