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入ってきたのは、見たことの無い男だった。
大きめの三つ編みを、顔の右横に垂らした目つきの鋭い青年だ。
歳は、サマルよりも下、カエサルよりは上だろう。
簡素で動き易そうな服は、身体のラインがはっきりと分かる。
騎士院所属の証とも言えるスカーフもなく、護衛だというのに武器も持っている様子はない。
ならば、魔法で護衛でもするのかと思うが、この、イースという青年の見た目からして、魔法が得意そうには見えない。
「イース=ランドル。騎士院に所属していたのは、1年だけだ。今日で、退職。実力は、俺のお墨付き」
サマルの右斜め後ろに立ったイースは、得に緊張した様子も見せず、カエサルの居住まいを観察している。
「イースは、騎士院に所属する前、騎士院本部の牢にいた」
「牢?」
騎士院本部の牢に入るのは、主に捕虜や大罪を犯した人間だ。
普通、犯罪を犯した者は、街中にある騎士院牢に入る。
そして、騎士院本部の牢に入るということは、罪状が確定している場合のみ。
つまり、捕虜として捕まった者以外の多くは、二度と出られないことが決まっている。
「2年前に、俺はイースを王宮、しかも、王子さんの自室付近の庭で捕らえた。意味が分かるか?」
王宮内に居て、捕らえられ、騎士院本部の牢に入る。
単純に考えようと、複雑に考えようと、答えの選択肢は少ない。
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