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葵は鞄から一冊のノートを出した。所々黒っぽい染みが付着していて、とても汚い。
「これは?」
「生前姉が使っていた日記です。
佐伯事務所に姉が何かを依頼したのは日記で知りました。依頼内容までは知らなかったけど……。
佐伯さんから家に電話があった時にはもう姉は亡くなってしまった後だったので、私の携帯番号を教えました……っ」
「ちょ……ちょっと待った! 依頼者亡くなってるんですか? てかどうして依頼者が亡くなってるのに依頼キャンセルしなかったんですかっ?」
「……姉は自殺だったんです、なのに遺書も何もなくて……。
あったのはこの日記だけで、中身も汚れてほとんど読めないし……唯一の手がかりが佐伯事務所に出した依頼だったんです。
……やっぱり本人じゃなきゃダメなんですか?」
今にも涙が溢れそうな葵に、山田は頭を抱えた。
めんどくさい、それが正直な感想だった。佐伯に連絡してみようか、そう思ったが、あの佐伯が重要なのは依頼者が違うことじゃなく……。
「ちゃんとお金払えます?」
「お金さえ払えたら引き受けてくれるんですかっ?」
佐伯事務所は客選びできるほど繁盛しちゃいない。依頼者が違うだけで断ったなんて佐伯にバレたら、銀のス○ーン代に何割の利子がつくか……。考えただけでも恐ろしい。
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