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「依頼を出す相手間違ってないか? この人」
黒をベースにした髪に茶や白が混じった独特の毛色。中性的な顔立ちと白くほっそりとした体躯(たいく)。光の当たり具合では金色に見える鋭い目も、今は興味無さげに空(くう)をさ迷い、彼の纏(まと)う雰囲気は空気の様に希薄(きはく)だ。
「間違い、とは?」
質問を質問で返すのは、この事務所の主(あるじ)である佐伯誠一郎(さえき せいいちろう)だ。一本の毛の乱れもない黒のオールバック。今時珍しい黒縁眼鏡。皺一つないスーツ。そして手には手術用の手袋。
「毎晩毎晩彼氏が行方知れずになるんです。朝には帰ってくるんですけど、私のことは無視するし、こんなこと今までなかったんです!お願いです!調べて下さい!
これって普通俺らんとこじゃなくて、探偵に頼むべきじゃないの? つーかただの浮気とかじゃないの?」
前半部分を声色(こわいろ)を変えて言うと、青年は一度手に取った依頼書を興味無さげにテーブルに放(ほう)った。
「この依頼書は間違いではありませんよ。
それにただの浮気調査なら、私が君にこの仕事を斡旋(あっせん)するわけないでしょう」
青年の言葉に、佐伯は淡々と答えた。
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