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そして未だにやる気を見せない青年に、佐伯は「それに」と続けた。
「君、今仕事を選べるほど余裕があるんですか? 知ってますよ、すでに金欠で最近ろくな物を食べてないこと。家賃も滞納してますよね?」
「……誰から聞いたんだよ」
「彼女からです」
佐伯が指し示したのは、この事務所の紅一点、相ケ瀬莉緒(あいがせ りお)だ。生まれつき色素の薄い彼女は、肌も透けるように白く、長い髪も人懐っこい目も薄茶色。ふっくらした外見と彼女の性格からか、柔らかな日差しのような雰囲気がある。
今まで事務所の片隅にある簡易キッチンにいたらしく、話を聞いていたのか、青年と視線を合わせて、短く「ごめんね」と謝った。
彼女が持っているお盆には、白い皿と、麦茶が入ったコップを2つ乗っている。
・・
青年の前に中身が入った白い皿と少し結露を纏ったコップを置き、佐伯の前にはコップだけを置き、残ったお盆を抱えて莉緒は佐伯のやや斜め後ろに待機した。
「……」
「お腹すいてるでしょう? さ、遠慮しないで下さい」
にこやかな笑みをたたえる佐伯に促され、実は腹ペコだった青年は白い皿に食らいついた。
「こ……これは……銀のス○ーン!!」
すごく美味しかったのか、莉緒におかわりを要求する青年。
予想していたのか、莉緒はすぐに皿を下げ、また同じように青年の前に置いた。
莉緒が何往復した頃か、満腹になり欠伸(あくび)をした青年を見て、佐伯はニヤリと笑った。
「食べましたね……?」
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