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冷たい佐伯の視線を避けるべく、事務所の電話を使う。
「はい、もしもし」
「えっ……あ、もしもし? えっと、俺……じゃなかった……私、佐伯事務所の山田という者なんですが、浅倉葵(あさくら あおい)さんですか?」
依頼書に書かれていた携帯番号に電話すると、呼び出し音がなる前に繋がった。幾分驚き、元々電話が苦手なせいで軽くテンパってしまった。
「あっ、あの事務所の! 電話じゃ伝えにくいんでどこかで会えませんか?」
「あ、えー……大丈夫ですよ。んー……と、今どの辺にいますか?」
「私、今学校の帰りで丁度佐伯事務所の近くにいるんです。事務所の前の喫茶店でどうですか?」
「え、学校? あ、喫茶店、了解ですよ」
「じゃあすぐ向かいますね!またっ」
プッ、ツーツー……。
随分若い女の子の声だった。はきはきとしていて、とてもうちの事務所に用がある人間には思えなかった。
目的の喫茶店はすぐ側にあり、店に入るとまだ依頼者の女性は来ていないようだった。
後から人が来ることをウェイターに伝え、窓側の席に座った。経費で落ちるよな、とここぞとばかりに料理を注文した。
カランコロン。
料理が来るのを待っていると、店のドアが軽やかに鳴った。
視線を向けると、頬を桃色に染めた色白な細身の女の子が立っていた。来ている服は、有名な私立中学の制服だった。
(まさか……ね)
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