第一章【前編】

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 葵が半信半疑なのもしょうがないように思う。一般人の中で幽霊や妖怪に遭遇する確率はそう高くないし、妖怪はその姿を人間に変え、平然と人間として暮らしている者も多い。  そもそも幽霊に関しては才能がないと見えにくいものだ。  佐伯事務所はそういった一部の人間の為だけに存在する。  警察では解決できないような事件もこちら側から覗けば、案外単純だったり。  もちろん法では裁けない存在なので、対処方も様々(さまざま)だが。  佐伯事務所はいわば幽霊や妖怪専門の警察のようなものだ。 「葵さんは……実際に見たら信じる?」 「……まさか、この喫茶店に幽霊がいるんですか……?」  不安そうに辺りを見回す葵に山田はニッと笑った。 「幽霊はいないけど、……葵さん、俺を見て……?」  手を重ねられ、顔を赤くした葵が反射的に山田に視線を向けると、そこには黒や白に茶の毛色の大きな猫の顔がニヤリとこちらを見ていた。 「ひ……ッ」       ・・・  一瞬でまた元の顔に戻った山田は、今度は悪戯っ子のようにはにかんで、咄嗟にふさいだ葵の口から手を離した。 「信じてくれた?」 .
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