第一章【前編】

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 凍りついたように固まる葵。  そんな葵に山田は苦笑い。この質問、事務所を訪れる人間はまずしない。訪れた時点で存在を認めているから。説明下手な山田は百聞は一見にしかずと正体を見せたが、これは失敗だっただろうか。  ウェイターが料理と飲み物を運んできた。山田が【マスターオススメスペシャルAランチ】を食べ終え、葵の前に置かれたコーラが水滴を纏った頃、やっと葵が正気に戻った。 「あの……、信じました。初めて見たからびっくりしたけど……、あはっ」  幾分まだ動揺はあるものの、ぎこちない笑顔を山田に見せた。 「ちなみに猫アレルギーじゃないよね?」 「え、あ、はい。猫飼ってるし……」 「そうなの? オス? メス!?」 「……そこ重要ですか?」 「俺的には重要! ……なんだけど、猫アレルギーじゃないことの方が重要でした。 じゃあ改めて……、この依頼を担当する山田です。依頼が解決するまでの間、よろしくお願いします」  手を差し出すと、そっと葵が握り返してきた。  不審者を見るような目だったけれど。 .
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