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甘ったるい声を出す汚らわしい女のヒステリックな叫びが僕の行く手を阻む。 玄関には男物の靴。女の服は開(はだ)け、恐らく奥の寝室には彼女を快楽へと誘う男が潜んでいるのだろう。 「……情事の最中だったかな。これは失礼」 「何よ!貴方には関係ないでしょ」 真っ赤な口紅に彩られた唇が忙しなく動く。乱れた髪に服、何よりも単なる嫌味への動揺が、僕の言葉が的を射たことを示していた。 「あぁ関係ないね。僕は水城を引き取りに来た」 「っ何よ今更!フザケないで!」 「今の君は水城を邪魔者としか思っていないだろう。せいぜい快楽に溺れていればいいさ」 女の顔は屈辱に塗(まみ)れ、口紅よりも紅く頬を染めた。それにしても、やはり完璧に約束を忘れているな。 まだ何か言っていたがわざとらしく息を吐き、構わず女を押し退け、ある扉の前に立つ。
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