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女――元妻と離婚する前から変わっていなければ、水城はこの部屋にいるはずだ。僕はゆっくりと扉を開け、瞬間、思わず息を呑んだ。 昨日降った雨は今日の地面を濡らすことはしなかったが、それでもこの時期の空を曇天にするには充分だった。 六月の夕方だというのに外は薄暗い。けれどそれを除いたとしても、そこは余りにも暗かった。カーテンを閉め、電気を消しているだけとは思えず、漆黒という言葉がふいに頭に浮かぶ。 それでも扉から差し込んだ光も手伝い、闇に目が慣れ始めた頃、ベッドの上に座る少女を見付けた。驚くべきことに、少女は生まれたままの姿だった。 裸族という言葉があるように、室内で服を着ていなければならないわけではないが、思ってもみなかった姿。 「……水城」 少女は僕の呼びかけには応えず、何年も切られていないどころか手入れさえされていないのが一目で解るほどに無造作に伸びた髪を掻き分け、自らの耳に両手を当てていた。 あと少しで口元にまで届きそうな、見ているだけで邪魔そうな前髪をけれど耳にかけることもせずに少女は動かない。 もしかして彼女は生きていないのではないか、ふとそんな思いが頭を過る。それほどまでに少女から生気は感じられず、呼吸で僅かに上下する躰(からだ)を見てホットした。 後ろから女の声がする。 「そんな頭のおかしい子、こっちから願い下げよ!」 そう言い捨て、女は奥の寝室へと消えていった。直後、嬌声が漏れ、僕は思わず顔を顰(しか)めた。けれどすぐに表情を掻き消す。
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