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首を傾げるムサシに向かって素子は続けた   「確率的にただ多い名字を言ってみただけさ。知らない奴に急に名前を呼ばれたら誰だって驚くだろ?」   『ひみつをしってたのはなんで?』   「誰だって秘密の一つや二つあるだろ」   『もし、すずきがいなかったら?』 「別な考えがあったさ」 『おしえて』 「嫌なこった」 素子は子供のような笑顔をムサシに見せた ムサシもつられて笑う   「絵の続きはいいのか?」 ムサシは素子にスケッチブックを渡す そして、紙を捲るような動作を見せた 「見ていいのか?」 ムサシは頷いた 素子は一枚一枚、じっくりとムサシの描いた絵に目を通した ムサシは黙ってそれを見ている 一通り目を通した素子は、それをムサシに返した 「上手いな。趣味か?」 ムサシは頷く 『もとこさんのしゅみは?』 素子はその文字を見た瞬間、哀しそうな表情を一瞬見せた 「趣味か…私には無いな」 再び見せた笑顔は作り物のようだった 「それより続きを描かなくていいのか?もうじき暗くなるぞ」 ムサシは少し考えてから、文字を書き出した 『きょうはもうかえるよ』 「そうか。じゃあまた今度な」 ムサシは立ち上がり、大きく手を振った 素子もそれに答える その日、素子は帰り道に本屋に寄って一冊の本を買った
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