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素子が手話を覚えるのに長い時間はいらなかった 放課後、素子が公園に立ち寄るのは本を買ってからの日課になっていた   「もうすぐ完成だな」 覚えたばかりの手話でムサシと会話する 「これは誰だ?」 素子がムサシの絵に描かれている女性を指差した ワンピース姿の長い髪の女性が湖の前の道を歩いている 「別に誰でもないよ」 ムサシからはこう返ってきた 「変わった奴だな」 ムサシが黙々と絵を描くのを素子はただ見ていた そして数分後、絵は完成した 「上手く描けてるな」 ムサシはそのページを破り、素子に差し出した 「これあげるよ」 「なんでだ?失敗したのか?」 「ううん。素子さんにあげるために描いたから」 素子はそれを受け取り、目の前の風景と交互に見る 「お前は将来、画家になれるよ」 素子はムサシの頭を撫でようと手を出した ムサシは恥ずかしいのか、それを避けた 「そういえばあれからいじめは無くなったのか?」 素子の言葉にムサシは急に顔を曇らせた 「どうした?」 「皆と仲良く遊びたい」 「まだいじめられてるのか?」 「ううん。あれから何もないよ」 「なら自分から遊びたいって……」 素子は途中で手話をやめる 「……言いたくても言えないのか…ごめんな」 素子は何も言えなくなってしまった ムサシもまた下を向いたままだった
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