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夏
もうその一言がぴったり過ぎる日だった
空には雲一つなく、ただ太陽だけが自らの存在を誇張するかのように、光を浴びせてくる
「どうだ?満足のいく広さか?」
まっさらなアスファルトの前に立つ素子とムサシ
これからここに絵を描ける喜びからか、ムサシの顔が笑顔になる
「しかし、今日は暑いな。水分補給はしっかりして、無理はしないようにしないとな」
既に素子の声が届いてないムサシはチョークを使い、早速下書きを始めていた
素子は邪魔をしないようにそれを眺める
この炎天下、長時間の作業はさすがに辛い
ムサシが疲れてきたのを見計らって素子はジュースを校内で買ってきた
二人は木陰に座り、休憩をとる
時折、吹く風が心地よい
「色を塗るのは明日だな」
「今日にしようよ」
「急いでやっても仕方ないだろ?」
「少しだけならいいでしょ?」
「じゃあ本当に少しだけだからな」
素子の手話も大分、慣れた手つきになっていた
「ムサシは暑いのは平気か?」
「うん。素子さんは?」
「私は苦手だ」
「じゃあもう少し休んでていいよ。続き描いてくるからさ」
ムサシは立ち上がって、木陰から出ていってしまった
素子も立ち上がろうとする
ムサシは「座っていて」とジェスチャーで指示を出す
素子はそれに甘えるように腰を下ろした
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