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少年はどうしていいか分からず、おろおろするばかりだった
「名前は何と言うんだ?」
少年は口を一生懸命開いてそれを伝えようとする
「…すまん。よく分からん」
女は少年の手を取り、もう片方の手のひらを開いた
「書いてくれないか」
少年は人差し指で女の手のひらに文字を書く
「む…さ…し……ムサシか」
少年は笑顔で答えた
「いい名前だな」
女が少年の手のひらを優しく広げた
そこに指を置く
文字が全て書かれたの後、ムサシは確認するように口を開いた
「そう。もとこ、私は素子だ」
ムサシの口の形から自分の名を呼んでくれているのが分かった
「…さて私はそろそろ行かなきゃならない。ムサシも気を付けて帰るんだぞ」
素子はムサシの頭を二回、ポンポンと叩き、立ち上がった
ムサシはもう一度頭を下げ、感謝の気持ちを伝えた
素子はそれを確認し、その場を去っていった
ムサシはというとしばらくの間、その場から動かなかった
手に残った素子のわずかな温もりを感じていた
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