5/10
前へ
/26ページ
次へ
少年はどうしていいか分からず、おろおろするばかりだった 「名前は何と言うんだ?」 少年は口を一生懸命開いてそれを伝えようとする 「…すまん。よく分からん」 女は少年の手を取り、もう片方の手のひらを開いた 「書いてくれないか」 少年は人差し指で女の手のひらに文字を書く 「む…さ…し……ムサシか」 少年は笑顔で答えた 「いい名前だな」 女が少年の手のひらを優しく広げた そこに指を置く 文字が全て書かれたの後、ムサシは確認するように口を開いた 「そう。もとこ、私は素子だ」 ムサシの口の形から自分の名を呼んでくれているのが分かった 「…さて私はそろそろ行かなきゃならない。ムサシも気を付けて帰るんだぞ」 素子はムサシの頭を二回、ポンポンと叩き、立ち上がった ムサシはもう一度頭を下げ、感謝の気持ちを伝えた 素子はそれを確認し、その場を去っていった ムサシはというとしばらくの間、その場から動かなかった 手に残った素子のわずかな温もりを感じていた
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加