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そして一本目の矢を投げる 矢は中心からは外れて、右上の方に刺さる 「なかなか難しいな」 素子は続けて構えをとった 今度は二度、三度軽い素振りのような仕草を見せる そうしてから放たれた矢は惜しくもやや上に外れてしまった それはまぐれではなく確実に真ん中を狙って外れたようにしか見えない その証拠に左右のズレは全くない 素子は無言のまま最後の一投を持ち、構えた 一投目や二投目の倍以上の時間をかけ、ようやく投げた 矢は見事に真ん中を貫く 「お見事!」 溝口が賞賛の声をあげる 「三本中一本なら普通だろう」 「でも素子さんは初めてだよ~?」 「まぐれだよまぐれっ!ほら、次はヒデだろ!」 「分かってるよ~」 上田の話に耳など向けず、素子は黙って矢を引き抜き、大山にそれを反した 「どうだった?ダーツ」 「難しいな。まぁ一本入ったのもたまたまだろう」 「またまたぁ、謙遜しちゃって。で、続きやる?」 「いや、私はこれを読む」 と、素子は側にあった本を取り上げる 「昨日買った本だっけ?」 「あぁ。続きが気になるんでな」 と言うなり、いつもの位置につく 大山は仕方なく、皆の方へと戻っていった 「素子さんは本当に凄いねぇ~」 「あぁ、大山の言うとおり、本を読むだけで修得出来るとはな」 「つまりオリジナル性のない人間ってことだろ」   「まっ、いわゆる天才肌なんでしょう」 素子にはその会話が聞こえていた 素子自身は自分のことを天才だなんて思っていなかった むしろ、他人より劣っていると感じていた 素子には素子なりの悩みがあったのだ
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