9/10
前へ
/26ページ
次へ
素子は真っ直ぐ家には帰らずに少し寄り道をした   大きな池のある近所の公園だった 時間に余裕のある時はここのベンチでいつも本を読んでいた しかし今日の目的は本を読むためではなかった ただなんとなく訪れた そしていつものベンチを目指すとそこには一人の少年がいた 見覚えのある少年に素子は声をかける 「池を描いているのか?」 少年は驚きから身体が跳ね上がった 声をかけられるまで素子の存在に気付かなかった 「驚かせて悪いな、ムサシ」 ムサシは素子の顔を見て、安堵の表情を浮かべる 「絵、上手いな」 素子がムサシの持つスケッチブックを覗き込む そこには二人の目の前にある池が描かれていた 鉛筆だけで描かれているものだが、確かにこの公園の池だと分かるぐらい忠実に再現されていた ムサシはスケッチブックをめくり、真っ白なページに何かを書き出した 『もとこさん、このまえはありがとうございました』 それを素子に見せる 「気にするな。ただの気紛れだからな」 ムサシは余白に続けて鉛筆を走らせた 『なんで、すずきくんのなまえがわかったの?』 「単純なことさ。これはただの勘さ」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加