123人が本棚に入れています
本棚に追加
素子は真っ直ぐ家には帰らずに少し寄り道をした
大きな池のある近所の公園だった
時間に余裕のある時はここのベンチでいつも本を読んでいた
しかし今日の目的は本を読むためではなかった
ただなんとなく訪れた
そしていつものベンチを目指すとそこには一人の少年がいた
見覚えのある少年に素子は声をかける
「池を描いているのか?」
少年は驚きから身体が跳ね上がった
声をかけられるまで素子の存在に気付かなかった
「驚かせて悪いな、ムサシ」
ムサシは素子の顔を見て、安堵の表情を浮かべる
「絵、上手いな」
素子がムサシの持つスケッチブックを覗き込む
そこには二人の目の前にある池が描かれていた
鉛筆だけで描かれているものだが、確かにこの公園の池だと分かるぐらい忠実に再現されていた
ムサシはスケッチブックをめくり、真っ白なページに何かを書き出した
『もとこさん、このまえはありがとうございました』
それを素子に見せる
「気にするな。ただの気紛れだからな」
ムサシは余白に続けて鉛筆を走らせた
『なんで、すずきくんのなまえがわかったの?』
「単純なことさ。これはただの勘さ」
最初のコメントを投稿しよう!