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「すっげぇムカツク」 相変わらず表情は見えなかったが、意味深にそれだけ言うと諫早裕也は踵を返して立ち去った 無言でそれを見届けた葵は、ハッとなってまた出血し始めた足に絆創膏を貼ると、食い荒らされた弁当を片付けた このままここにいても仕方が無いのでおとなしく屋上から出ると教室に戻った その後の授業全てが上の空だった葵は、心配する凉香に大丈夫とだけ告げると一人教室に残った 理由なんてなかった 強いてあげるならば、家に帰りたくない 机に突っ伏して目を閉じた 「お腹空いた」 食べられてしまった弁当を名残惜しく思い出す もしかしたらまだ学食で何か売ってるかもしれないが、体を動かすのが億劫だった まだ窓の外は明るい―― しばらくして誰かに名前を呼ばれた 重い瞼をうっすら開けると、誰かが葵の前に立っている 顔をあげるのがめんどくさくて再び目を閉じようとすると、強く体を揺り動かされた 仕方なくノロノロと上体を起こすと、山口が心配そうに葵の顔を覗きこんだ 「椎名さん大丈夫?そろそろ下校時刻よ」 「……………」 「椎名さん?」 回らない頭で山口の言葉の意味を必死に考え、目の前で手が上下に振られたところでやっと思考が戻ってきた 「すいません…すぐに帰ります」 誰もいない教室を見渡しいそいそと帰宅の準備に取り掛かる 「早く帰りなさい、親が心配するわよ」 「はい」 心配なんてするものか―― 彼らが心配するときは自分の面子がかかっているときだけだ、娘の心配なんて天地がひっくり返ってもしないだろう いつだってそうだ、自分のことなんてただの……… 葵は頭を振った どうも夕方と言うのは感傷的になってよろしくない 背後で何かを言う山口をおいて、葵は教室を出た
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