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雨が降りそうな空模様だ――
生憎傘は持っていない――
でも、たまには濡れるのもいい――
そんなことを思いながら葵は歩いていた
足取りは重い
家に帰りたくない思いの現れだろうか
延々続く住宅街を歩きながら、ふと脇道に目が行った
車1台分くらいしかないその道に葵は何故か妙に惹かれた、いつもと違う道も気分転換になるかもしれない
少しでも今の暗い気分を晴らしたくて、迷わず踏み込んだ
人の気配は全くしない
みんな家に篭っているようだ、帰宅ラッシュにも少し時間は早い
道なりに進んで行くと目の前に公園が広がった
そこまで大きくはないが、公園にありそうなものは一通り揃っている
葵はブランコに近付くと座った、久しぶりにゆっくりと揺られ空を見る
相変わらず空模様は変わらず雲行は怪しい、変わったのは暗さだけ
明かりが無ければほとんど見えない
視線を戻ししばらくぼぉっとしていると、ガサッという音が聞こえた
突然のことに飛び上がって驚き音の出所を探すと、そんなに離れていない草陰だった
再びガサガザと音がし、人の声とおぼしきものも聞こえてきた
確認しようとしたが、住宅の壁と草木でいい感じに外からは見えない
「あのっ…誰か……」
声を出して確認してみるものの返答は無い
さらに声をかけるがやっぱり反応はなく、抜き足で近付く
残り4m――
「あっ……あぁ!」
葵は硬直した
明らかに濡れた女の人の甘い声、続け様に響く
何をしているかは明らかで………突然草木が成長した
否――
何かが立ち上がっただけだ
その何かが葵を見つけ葵と目が合う
そらす事が出来ずしばらくお互い睨みあっていた
「ゆぅ………!」
沈黙を破ったのは濡れた女の声
直後に何かが下を見、葵と視線が外れた
その瞬間葵はその場から逃げ出した
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