罪深き行為

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 閻魔がパチンと指を鳴らすと、円形の巨大な鏡にヒビが入った。そのヒビは全体に広がり、やがて形を崩し砕け散った。  砕けた鏡は、まるで洞窟のような空洞を作りだした。奥は真っ暗で、何も見えない。 「こ……これは?」  俺は涙声でどうにか言葉を絞りだし、閻魔に問いかける。 「この穴は現世へと続いている。ここを通れば君はまた別の人間へと生まれ変わるんだ」 「生まれ変わる? 地獄行きはどうなったんだ?」  その問に、閻魔は頬を緩ませながら言った。 「これから君は現世という名の地獄で、一人の少年に深い悲しみを与えてしまった罪を償ってもらう。次は悲しみではなく、もっとたくさんの喜びを人に与えるのだ」  確かに、俺にとっちゃ現世はなによりの地獄だな。  でもしかたない。俺はもっとも犯してはならないことをしてしまった。そいつはちゃんと償わないとな。  人に喜びを与えること。今まで一度としてやった記憶がないが、試してみよう。  俺はゆっくりと穴に向って歩いて行く。そして穴の直前でいったん止まり、閻魔の方へと振り返る。 「なぁ。俺に出来ると思うか?」  閻魔は小さく微笑み、言った。 「できるさ。大事なことに気づけた君なら……きっと」 「そうか」  俺は短く返事を返すと、穴の中へと入っていった。  これから俺は生きていくんだ。罪を償うために。  この、地獄のような世の中で。
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