罪深き行為

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 ボロいアパートの一室に、けたたましく響く目覚まし時計のベル。一日の始まりを告げるこのベルの音が、俺は心底嫌いだ。  あぁ、また今日が始ってしまう。  俺は布団の中からゆっくりと腕を伸ばし、ベルを止めた。まだ完全に覚醒していない頭を無理やりたたき起し、布団の中からはいずり出る。  薄汚れた白いカーテンの隙間から光が差し込んでいるのを横目で見ながら、俺は壁にかかっている制服を手にとる。  これから俺はこれを着て、学校に行かなければいけないのか。  朝が訪れるたびに、いつも考えてしまう。どうして学校に行かなければいけないのだろう。  行ったところで、将来使わない無駄な知識を叩きこまれ、クラスメイトからまるでゴミを見るかのような眼でみられる。  何が理由で始まったわからないイジメ。上履きが無くなることなんていつものこと。時には机や椅子までなくなっている。教室に入れば嫌でも聞こえてくる罵声の数々。なにか気に食わないことでもあろうものなら、即サンドバックにされる。  そんな、俺になんの利益も与えてくれない環境に、どうして自ら行かなければいけないのだろうか。  そうだよ。行かなければいい。あんな学校やめちまえ。  何度同じことを考えただろうか。それが出来たら確かに楽かもしれない。だけど、それだけはしたくなかった。たぶん、いや、確実に俺が学校から消えたら、クラスの連中は大喜びするだろう。それを考えると、どうにも気に食わない。  そこまで考えて、俺はいつも制服に着替える。そして、机の中から取り出すシルバーの腕時計。  父が死んで、それから一人で一生懸命俺を育ててくれた母からの、最後の誕生日プレゼント。今は父と同様に、決して会うことのできない場所へ行ってしまった、母から のプレゼント。  高いものではないが、俺にとってはかけがえのない宝物だ。どんなに悪口を言われても、どんなに他人から無視されようと、この腕時計を見れば、耐えることが出来た。  そんな俺の拠り所ともいえる腕時計を身につけ、行きたくもない学校へと足を運ぶ。  これが俺の毎日。 「行ってきます」  一人暮らしをしている俺。もちろん部屋には誰もいない。それなのに、ついつい口から出てしまうこの言葉。  儚い言葉を殺風景な部屋に残し、俺は重い足取りで学校に向かう。
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