【第Ⅰ章】

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[Side:闘神] 「なぁ、これ何か知ってる?」  布の包みを開け、中を見せてきた。  「あぁ」と頷き、中身を持ち上げる。  それは竹笛。  二人が今いるのは、下界の珍しい物を保管しておく倉。  その中の物を、自分は殆ど全て知っているが、大神は一つ一つ自分の手が届く範囲で教えてくれた。ただし上の方は手が届かないため何も言わない。 「笛ですよ。下界の者はこれを専門に仕事をする者もいるらしいです」 「どうやって使うの?」 「私も少し心得があるくらいですが……やってみましょうか?」 「うんっ!」  大きく頷いた大神についついクスリと笑ってしまった。  ゆっくりとした動作で笛を構える。  笛の音が、倉全体に響く。  とても優しく、穏やかな音。  思わず感嘆の声を漏らした大神は、しかし慌てて口元を両手で覆う。  静かに目を閉じ、笛の音色に聴き入っていた。
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