【第Ⅰ章】

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「なぁなぁ、知ってる?」 「?何がですか?」 「この天界にはな、澄んだ水の流れる川が七つあるんだっ」 「あぁ、七川(しちせん)でございますか。  えぇ、それが何か?」  朗らかに聞き返すと、大神は窓の枠に腰掛け、その上に右脚をのせると抱くようにして外を眺める。  まるで、遠くを見霽かす(みはるかす)かのように。  横まで歩き、同じように外を眺める。  どこまでも続いていくような草原(くさはら)と空。  この神殿は南北を向いている。  南に入口、北にはこの草原と、まるで別々の世界のようにも思える。 「俺ね、ヤな気持ちの時とか悲しい時とか、見に行くんだ。  そうするとね、不思議と落ち着くんだ」 「それは私も同じでございます」  ゆっくりと目を閉じ、両の手を胸の前に翳す(かざす)。 「川の流れはとても穏やかで優しく、その水は澄んでいて美しい……。見ているだけで癒されます」 「うん。
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