蛍の光

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 159cmと同世代の男子に較べやや小柄な楓は、童顔というより女の子みたいな端正な顔付きで、入学してまだ一ヶ月ほどにも関わらず女子の間ではアイドルのような存在になっていた。  「文化系はどうだろ………生物部ってなにするのかな?」  いささか活動内容が怪しい部活の勧誘ポスターもあった。化学部の謳い文句なんかは、『化学に触れよう!きっとあなたも爆弾が造れる!』だと。なんだこれ、テロリストの募集じゃないか。  後ろを女子たちが楓の顔を見て小声できゃあきゃあ話しながら通り過ぎて行くが、楓はそれが非常に不愉快でならなかった。  産まれてこのかた『女顔』ということでいろんな苦節を経験してきた。男子からはからかわれるし、女子からは『かわいい』と持て囃される。  ボクは男なんだ、体が小さかろうが女顔だろうがそういった理由で持て囃されるのはひどく気に食わない。  アイドルグループみたいな人気はいらない、ただ黙って男として扱ってもらえるのが一番嬉しい。  それは以前から楓が持っている、ある種コンプレックスともいえる悩みのひとつだった。
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