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「……遅っせぇなぁ」
三週間後。
柳はセイフティネックの点検のため、牢屋から別の場所に移動させられていた。
白を基調としたその部屋は、エントランスルームと呼ばれる待ち合い室である。
「はぁ」
大きな嘆息。
柳の感覚では、それなりの時間が経っていた。このままでは顔合わせよりも先に、セイフティネックの点検が始まってしまう。
今日という日を楽しみにしていたこともあり、その落胆は中々に大きかった。
『セイフティネックの点検、調整のため、被験体2587号が入室します』
――そんなことを考えていると、スピーカーから機械的な女性の声が響いた。
前々から聞いていたナンバーが放送されたことで、沈みかけていた気分が一気に浮上する。
(いよいよお出ましか)
壁の一部が横に滑り、そこから一人の少女が入ってきた。
さあ、ご対面だと、その顔に視線を向けて、
「……………………」
柳は無意識のうちに息を飲んだ。
――牢獄にも似たこんな場所で、有名な芸術作品を見つけたような驚きだった。
普段なら馬鹿馬鹿しいと思う表現が浮かんでしまうほどに――彼女は美しかった。
「アンタがヤナギ?」
一人一人、首のナンバーを確認していた少女が話しかけてくる。そしてその声は、知り合ってから毎日、ずっと聞き続けたものだ。
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