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「あ、ああ……」
「どうしたの? なんか歯切れが悪いわよ?」
普段とはどこか違う反応を見せた柳に、利菜は怪訝な顔をする。
見惚れていた、などという理由を言うわけにもいかず、柳は首を横に振った。
「い、いや、なんでもない……」
反則だろう、と柳は思った。
冗談で「自分に惚れるな」と言ったが、実際に会った彼女は、逆に誰をも魅了するような美少女だった。
実際のところ、まだ胸が高鳴っているくらいである。
「ふーん? ま、いいわ。隣、座るわよ」
ストンと、言葉通りに彼女は隣に座った。次いで、力の抜けたような笑顔を柳に向ける。
「はじめまして、なのかな? やっと会えたわね」
心の底から喜んでいるような、そんな笑顔だった。
その言葉に柳はドキリとしたが、少しの沈黙の後、徐々に表情が変わっていく利菜に首を傾げる。
「どうした、不満そうな顔して」
「……お前が言ったんだろうが人との約束忘れるってどういう了見だコラ」
刹那――それくらい速かった――柳は胸倉を掴まれていた。
突然近づいてきた利菜の顔にドギマギする余裕もない。相手の目は座っていて、口は笑みを形作りながらもひくついている……それが怒りの表現方法の一つだということは、初対面でもすぐに分かった。
ちなみに、こういう時にはすぐに止めてくれるはずの見張りは、利菜が自分の身体を上手く死角にして見えないようにしていた。
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