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「……ん?」
微かに聞こえた足音に、天崎柳(アマサキ・ヤナギ)は片目だけ開いた。
段々と近付いてくる気配に警戒しようとして、止めた。
どれほど強さに自信があろうとも、両腕を拘束する手枷と、セイフティネックと呼ばれる首に巻かれた鎖のせいで、全力で戦えないからだ。
「早くしろ。麻酔が切れるぞ」
男の声が聞こえた。
自分が入っている檻の隣で、二人分の足音が立ち止まる。
(新入りか……)
“虫”という存在がある。
思春期の少年少女に寄生し、寄生主――世間からは「虫憑き」と呼ばれる――の夢を喰うかわりに、力を分け与えるというものだ。
一方、政府は虫憑きの存在を無いことにしようと、捕獲・隔離を目的とした一つの組織を秘密裏に造り出した。
特別環境保全事務局。
現在柳は、通称、特環と呼ばれるそれの隔離施設に投獄されていた。
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