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「チャンス?」
「ああ、逃げ出すためのチャンスだ。――皆でな」
もし、彼女が怒りのままに脱走することがあれば、ただでさえ厳しい警備が更に強化される。柳としては、それだけは避けたかった。
「そのうち顔を合わせる機会もあるだろ。その時に詳しく話すさ。それまでこの話は無しだ」
ようやく眠気が出てきた。欠伸をし、「おやすみ」とだけ言って、粗末なベッドに横になる。
「一つ、聞いてもいい……?」
寝ようとしている自分に遠慮しているのか、先程よりも小さい声。
「何を?」
「名前」
ああ、と思い出す。そういえば説明しただけで、自己紹介さえしていない。
「天崎柳だ」
「ヤナギ、ね。覚えたわ。私の名前は」
その日聞いた名前を、柳は一生忘れないだろう。
「立花利菜」
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