第一章

6/11
前へ
/13ページ
次へ
「チャンス?」   「ああ、逃げ出すためのチャンスだ。――皆でな」        もし、彼女が怒りのままに脱走することがあれば、ただでさえ厳しい警備が更に強化される。柳としては、それだけは避けたかった。     「そのうち顔を合わせる機会もあるだろ。その時に詳しく話すさ。それまでこの話は無しだ」        ようやく眠気が出てきた。欠伸をし、「おやすみ」とだけ言って、粗末なベッドに横になる。       「一つ、聞いてもいい……?」      寝ようとしている自分に遠慮しているのか、先程よりも小さい声。       「何を?」   「名前」        ああ、と思い出す。そういえば説明しただけで、自己紹介さえしていない。       「天崎柳だ」   「ヤナギ、ね。覚えたわ。私の名前は」        その日聞いた名前を、柳は一生忘れないだろう。           「立花利菜」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加