第一章

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「ここの料理って、いつも冷めてるのばっかね」        食事の時間、隣から利菜の嘆息が聞こえた。   「あったかいのが食べれると思ってるわけじゃないけどさぁ……」と、付け足すように呟く。      柳は最初から気にならなかったが、利菜は半月経った今でもまだ慣れないらしい。       「ささやかな工夫なんだよ」   「工夫?」   「虫憑きを使い捨てるようなやり方をしている以上、特環にはいつも戦力が必要になる」        うんうん、と相槌。     「だから、こういう色んな所から、少しずーつプレッシャーをかける。そうすると思うわけだ。“前の生活に戻りたい”ってな」      溜息が聞こえた。純度100パーセントの呆れ。       「そうやって、“ここから抜け出す方法は一つだ”ってやるわけね」        それが、特環への服従。    彼らはそうやって虫憑きを補充する。     「まあ、慣れちまったがな」      湿度、気温といった環境はいつも不快感を示す数値。衣服は病気にはならないように毎日交換させてくれるが、それ以上は絶対に無い。        それでも……自分がいつ虫憑きだとバレるのか分からない外よりは、ずっとマシだった。    ここにいるということは、自分が虫憑きというのが大前提だからだ。    周囲に気をつけなくていい分、精神的にはずっと楽で――それこそ自分の放り込まれた劣悪な環境も気にならない。          それに、と柳は続ける。     「欠落者にされるのと比べれば、よっぽど平和的だ」      ある意味、暴力よりも惨い方法だが……それでも暴力ではない。    暴力が嫌いな柳からすれば、諸手を上げて賛成しそうなぐらいの方法だった。
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