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「ここの料理って、いつも冷めてるのばっかね」
食事の時間、隣から利菜の嘆息が聞こえた。
「あったかいのが食べれると思ってるわけじゃないけどさぁ……」と、付け足すように呟く。
柳は最初から気にならなかったが、利菜は半月経った今でもまだ慣れないらしい。
「ささやかな工夫なんだよ」
「工夫?」
「虫憑きを使い捨てるようなやり方をしている以上、特環にはいつも戦力が必要になる」
うんうん、と相槌。
「だから、こういう色んな所から、少しずーつプレッシャーをかける。そうすると思うわけだ。“前の生活に戻りたい”ってな」
溜息が聞こえた。純度100パーセントの呆れ。
「そうやって、“ここから抜け出す方法は一つだ”ってやるわけね」
それが、特環への服従。
彼らはそうやって虫憑きを補充する。
「まあ、慣れちまったがな」
湿度、気温といった環境はいつも不快感を示す数値。衣服は病気にはならないように毎日交換させてくれるが、それ以上は絶対に無い。
それでも……自分がいつ虫憑きだとバレるのか分からない外よりは、ずっとマシだった。
ここにいるということは、自分が虫憑きというのが大前提だからだ。
周囲に気をつけなくていい分、精神的にはずっと楽で――それこそ自分の放り込まれた劣悪な環境も気にならない。
それに、と柳は続ける。
「欠落者にされるのと比べれば、よっぽど平和的だ」
ある意味、暴力よりも惨い方法だが……それでも暴力ではない。
暴力が嫌いな柳からすれば、諸手を上げて賛成しそうなぐらいの方法だった。
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