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目の前にいた男性に見覚えがあった。
「あなたですよね。手帳の。」
その男性がカバンを探り、手帳をみせた。
そして自分の着ていた上着を陽菜の肩にかけた。
そのとき、少しだけ優しく抱きしめた。
「ちょっと待ってて。」
その男性は急いで走っていった。
しばらくの間、カバンを抱え立ち尽くしていた。
さっき来た人は幻だ ったんじゃないかと思った。
あの人はもう戻って来ないんじゃないかとか、心配と不安が混ざり合っていた。
こんな気持ちになったのは陽菜の両親が事故にあった日以来だった。
その日も、普通に両親を見送っただけなのに、どこかでモヤモヤしたところがあった。
今、同じ気持ちだった。
あの男性のこと、初めて会ったに近い人なのに、こんなに心配するなんて自分でも不思議だった。
そんな事を思っていると目の前に車が止まった。
「ゴメンね。乗って。」
運転席から降りてきたのは、さっきの男性だった。
再び現れたことで、一気に緊張の糸が切れた。
「幻じゃなかったんだ…。」
彼は陽菜の顔をじっと見ていた。
陽菜を見つめる彼の顔はとても優しい顔だった。
陽菜はさっきの不安から解き放たれ、安心感からか涙が出てきた。
その涙をみた彼は驚いた様子だった。
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