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「というわけで、この『サンタサマミツカール君2号』はお貸ししますよ」
中井はその極めて胡散臭い道具を幸一に差し出した。
訝しみつつも幸一は受け取り、その小さな箱状の機械に視線を落とす。
「これで一応俺にもサンタクロースのいる方角なんかがわかるわけか」
「それと写真を合わせれば鬼に金棒ですね」
「ああ、立派なストーカーの出来上がりだ。警察ホイホイだな。でも俺が持ってていいのか?」
「はい」
中井は自信満々に胸を張って頷く。
「私自身がサンタサマミツカール君と同じかそれ以上の嗅覚を持っていますから」
つまり、『サンタサマミツカール君2号』の『2号』というのは、『1号』が中井自身であるかららしい。
根っからのストーカー体質とも言える。
「まあ、でも向こうに避けられてたら意味がない。ここは挟み撃ちでもするしかないな」
「お、サンタ丼ですか」
「お前はいちいちいかがわしいな」
「賛成です」
「自信持って肯定するなっ」
「そうではなくて、挟み撃ちです」
幸一は大きくため息をついた。
中井のペースに合わせていては、あっという間にクリスマスが来てしまう。
「とにかく、さっきみたいに二手に別れるぞ――」
そう言って再び動きだそうとした幸一の目に、あるものが映った。
中井は立ち止まったままの幸一の前に回り込み、顔を覗き込む。
「どうしちゃったんですか?」
そして、幸一がある一点に視線を奪われていることに気づいた中井は、その視線の先を追った。
幸せムードがひしめき合うアーケード街の片隅に、ぽつりと、穴が空いていた。
それは幸一の良く知る穴だった。
家族、友達、恋人、家路を急ぐサラリーマン、待ち合わせをしている若者、そんな中で、一人だけ浮いた存在。
満員御礼とばかりにお客を吐き出すケーキ屋の前で、行き交う人達を途方にくれたような視線で追う小さな子供がそこにいた。
母親とはぐれでもしたのだろう。
これだけ人が多い中で、その少女は一人ぼっちだった。
それは、何というか――
不幸、だったに違いない。
「あ、どこへ行くんです?」
中井の問い掛けにも答えず、幸一は真っ直ぐ歩き始めた。
後ろから中井が追ってくる。
人混みを遮断するかのように斜めに突き進み、そして立ち止まった。
「おい、どうした?」
不安そうな瞳で、少女は幸一を見上げた。
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