54人が本棚に入れています
本棚に追加
数秒間見つめ合った末、少女はどう判断したのか幸一から目を逸らした。
正しい判断かもしれない。
年上の見知らぬ男性から突然話し掛けられたのだから。
しかし、幸一は意に介さず再度問い掛ける。
「もしかして、迷子か?」
ぴくりと、僅かに反応があった。
「誰ですか、この小生意気なガキは」
幸一の後ろから中井が顔を覗かせる。
「お前、トナカイのくせに毒吐くなよ」
「これは失礼」
「どうやら、迷子らしいんだ」
「ほう、こりゃまた珍しくもなんともないですねぇ」
少女は意を決したかのように幸一を見上げた。
藁をも掴む想い、というやつだろう。
「お姉ちゃんとはぐれちゃったんです、それで探してたら今度はここがどこかもわからなくなって……」
なるほど、と幸一は頷く。
あまり良いパターンではなかった。はぐれた場合、あまりその場から動くのは好ましくない。
「じゃあ、とりあえず姉を探しつつそのはぐれた場所まで戻るか」
少女はようやく希望を見出だしたかのように表情を輝かせた。
「お、お願いします!」
「あらあら、ずいぶんとお優しいですねぇ。私の探し物にはあまり積極的ではなかったのに」
傍らで中井が皮肉たっぷりの言葉を吐く。
当然のことながら、存在するかもわからないサンタクロースと迷子の姉探しだったら後者を選ぶだろう。
その辺の事情を説明したところで中井には通じないだろうが。
「はっ! まさか、ロリコ――」
「お前と一緒にするな変態トナカイ。ただ、何つーか――クリスマスに不幸なのは俺一人で良いだろ」
それだけ言って幸一は少女から元いた場所を聞き出す。
そんな背中を、中井がどんな表情で見つめていたかは幸一にはわからなかった。
「――なるほどな。だいたい場所はわかった」
少女の情報はかなり断片的だったが、駅前のことなら大体把握している。
店の並びだけでどの通りかぐらいはわかった。
「それじゃ、いくか。えーと……名前は?」
「ゆみ」
「よし、行くぞ。ゆみちゃん」
「うん」
「お前はどうする?」
幸一は振り返って中井に問い掛ける。
一人でサンタクロースを探すというなら、それも構わなかったが、中井は意外にも「付き合います」と答えた。
「貴方だけじゃ、通報されちゃいますよ」
否定しようとしたが、あながち有り得なくもないので、中井の同行を受け入れることにした。
最初のコメントを投稿しよう!