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場所がわかっているのだから辿り着くのは早いもので、はぐれたという地点までは30分もかからずに連れていくことが出来た。
しかし、何となく予想出来たことだが、そこに姉の姿はなかった。
(つーか、これって結構ヤバイ状況じゃないか? この人混みで迷子って……)
傍らの少女ゆみは辺りを見回しながら、不安げに瞳を揺らしている。
「あー、そうだ。ケータイとかは?」
幸一が問うと、ゆみは首を横に振る。
「えーと、お姉ちゃんも?」
今度は縦に振った。
幸一は一応、最寄の交番を検索しておこうと携帯電話を取り出そうとしたが、携帯電話は中井に壊されたため持っていないことを思い出す。
睨みつけてやっても、中井は小首を傾げるばかりだ。
しかし、ふと中井の顔を見てあることを思い付く。
「おい、お前のいかがわしい道具で何とか出来ないか? 一つくらいまともなのあるんだろ?」
「果てしなく無礼な物言いですね。全部まともですが、ただの人捜しというのは難しいです。相手がサンタクロースなら話は別ですが」
「なあ、ゆみちゃ――」
言いかけて、幸一は言葉を飲み込む。
ゆみは顔をあげて首を傾げるが、幸一は「なんでもない」と言って誤魔化した。
まさか「お姉ちゃんはサンタクロースか?」なんて訊けるはずもないし、仮に訊けたとして頷く筈もない。
「じゃあ、オイ、例えばプレゼントの前借りとか出来ないか? どうせクリスマスもイブ同じようなものだろ」
幸一の不幸も一日早く訪れて今に至るのだから、それくらいのサービスはあってもいいだろう。
「前借り、ですか」
「ああ、いや。トナカイに言っても仕方ないか」
「むっ、そんなことありませんよ。今までだって、プレゼントの管理はこの私がやってきたのですから」
そう言って自慢げに頭を突き出す。
「撫でないからな?」
「角を張っただけですよ」
「いや、そこは胸を張れよ……で、結局可能なのか?」
「不可能ではありませんよ」
「よし。ゆみちゃん、この怪しいお姉ちゃんが何とかするってさ」
それを両手離しで信じるはずもなく、ゆみは不審そうに中井を見上げた。
「さあ、中井。思う存分奇跡を発揮してやれ」
「その前にですね、サンタクロースのプレゼントは“良い子”にしかあげられないのです」
「はあ? 何を――」
幸一の言葉も聞かずに、中井は一歩踏み出して、ゆみの前に立つ。
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