第一章

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  「あの、妹がご迷惑をおかけしました」  姉の方もやってきて、深く頭を下げる。  歳は幸一よりやや下くらいだろう。  先程の焦燥感からは脱っして一転し、利発そうな落ち着いた雰囲気を持っていた。 「改めてお礼をさせていただきたいので、電話番号を頂いてもよろしいですか?」 「ああ、いや。いいって。気にしないで。それに、今は携帯電話ないし」  携帯電話の番号は暗記していたが、敢えてそれは言わなかった。 「では、ご自宅の方を――」 「いやぁ、親が出ても説明が面倒だし、いいってば。こんな日だろ? 親切ぐらいタダで受け取っても罰は当たらない」 「でも……じゃ、じゃあ、こんなものしか今はないのですが」  そう言って姉は鞄の中に手を入れる。  出てきたのは、綺麗にラッピングされたお菓子だった。 「いや、えーと」  利発そうに見えて案外抜けているのか。  それが報酬に見合わないとか、対価として失礼だとか、そんなことは一切ない。  お菓子自体が嫌いというわけでもない。  ただ、それは受け取れないな、と思った。  ゆみを助けたのは、むしろ幸一のエゴだ。自分が満たされなかったものを、勝手に投影してそれを救ったに過ぎない。自己満足なのだ。  それに、その包みを見ないように視線をそらし、我慢するように口をつぐむ少女の為にも、それは受け取るわけにもいかないだろう。 「気持ちだけ貰っておくよ。どうしても何かしたいと言うなら、――今後クリスマスやイヴの日に困ってる人がいたら、出来る範囲で助けてやってくれ」  それもきっと自己満足に違いない。  それでも、他の誰かが救済されるなら、幸一が他人の不幸を背負い続けたことにも意味を持たせる事が出来るような気がするのだ。 「わかりました、きっと。ゆみもね」 「うんっ」  二人は素直に頷いた。  幸一は満足気に頷いて、それぞれ頭を撫でた。 「では、失礼します。本当にありがとうございました」  最後にもう一度一礼して姉妹は去っていく。 「もう迷子になるなよー」 「変態には気をつけてー」 「お前だよ、お前」 「気をつけてー」  妹の方が振り返り、 「うん! ありがとう、トナカイのお姉さん! サンタのお兄さん!」  そうして二人は人混みの中に消えていった。 「……今、物凄く失礼なことを言われた気がする」 「その発言がものすごく失礼ですけどね」  
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